ハードタック——兵士の命を救った硬いビスケット
「ハードタック(hardtack)」は、小麦粉・水・塩だけで作る極めて硬いビスケットだ。水分含有量を極限まで下げることで、適切な保存条件下では数年間腐敗しない。
アメリカ南北戦争(1861〜1865年)では、北軍・南軍ともにハードタックが主要な携行食だった。兵士たちはこれを「歯が折れる」「石みたいだ」と嫌いながらも、水やコーヒーに浸して食べた。戦場での栄養不足を補うため、ハードタックに塩漬け豚肉を合わせる「ハードタック・アンド・ソルトポーク」が定番の食事だった。
十字軍とビスケットの関係
十字軍(1095〜1291年)は、ヨーロッパからパレスチナへの長距離遠征だった。この遠征において、長期保存できる食料の確保は生死に関わる問題だった。
十字軍兵士が携行したのが「ビスケット」——2度焼きした硬いパンだ。通常のパンは数日で腐敗するが、水分を飛ばした2度焼きビスケットは数週間保存できた。この軍用食が、後のヨーロッパ菓子文化に影響を与えた。十字軍がアラブ世界から持ち帰ったスパイス(シナモン・クローブ・ナツメグ)は、中世ヨーロッパの菓子文化を豊かにした。
第二次世界大戦とクッキーの大量生産
第二次世界大戦(1939〜1945年)は、食品産業の大量生産技術を飛躍的に発展させた。アメリカ軍の「Cレーション」には、チョコレートバーやビスケットが含まれていた。
戦時中、アメリカの家庭では砂糖・バターが配給制になり、クッキーのレシピが変化した。砂糖の代わりにコーンシロップ、バターの代わりにショートニングを使うレシピが普及した。これらの代替素材は戦後も使われ続け、アメリカンクッキーの特徴的な食感(しっとり・柔らか)を形成した。
宇宙食とクッキー
1960〜70年代の宇宙開発競争は、新たな食品保存技術を生み出した。NASAは宇宙飛行士の食料として、クラムが飛び散らない「スペースクッキー」を開発した。通常のクッキーは食べると細かいクラムが飛び散り、無重力空間では機器に入り込む危険がある。
この技術的課題を解決するため、NASAは一口サイズで完全に密封されたクッキーを開発した。この技術は後に、アウトドア食品・非常食・スポーツ栄養食の開発に応用された。